言えないけれど、会いに行きます




誰もが楽しみな夏休み。
だけれど、その間は。



終業のベルが鳴り、一斉に問題用紙が回収された。
期末試験ももう終わり。
明日の終業式を終えたら、もう1ヶ月の休みに入る。
長い、長い、夏休み。

「明日テスト返すからなー!」

やっとテストが終わった喜びを一気に崩されて、
生徒達は大ブーイング。
弁慶は、教室の窓から空を仰いだ。
真っ青な空。
夏休みなんだ、と思うと、嬉しいけれどなんだか寂しい。

(…明日が終わったら、しばらく会えないんだ…。)

ひとり、小さくため息。



中庭で蝉がうるさいほど鳴いている。
仔猫を探して、上履きのまま中庭を進むと、
仔猫は木陰で寝転がっていた。

「君とも、しばらく会えませんね…。」

にい、と鳴いて、仔猫は弁慶の手に擦り寄った。
くすぐったいですよ、なんてくすくす笑っていると、
真上から声が降ってきた。

「…声がすると思ったら、そんなトコにいた。
 中に入ったら?
 暑いだろ、そこ。」

「あ、先生…。」

弁慶は、じゃあ、と言って立ち上がる。
窓越しに仔猫を預けて、
自分は、保健室の裏口から入った。



「…明後日から夏休みですね。」

「ああ、そうだね。
 早いよなあ…。」

ヒノエは、カレンダーに書いた、終業式の文字を見た。

「でも、オレ、結局
 毎日のように来る羽目になってるんだよね。」

ヒノエは苦笑した。

「部活があるだろ?
 だから、どちらにせよ、学校にはいるんだよね。」

「……大変なんですね、先生って。」

学校に来れば、先生には会える。
仔猫にも。
でも、それを理由に会いに来るなんて、そんなことはできない。

「……図書室だって、空いてるはずだけど。」

「…そうなんですか?」

「ん、図書室に開放日の案内、置いてあっただろ?
 もらわなかった?」

弁慶は首を傾げた。
いつも本を借りて返すくらいだから、掲示物やビラはあまり見ない。

「…ほら、コレ。」

ヒノエは机のひきだしから、1枚のプリントを出した。
弁慶は、目を輝かせた。

「結構、開いてるんですね。」

「それ、持ってっていいけどさ、」

けど、のあとに続くことばを待った。
ヒノエは、弁慶のみつあみに手を伸ばした。
くるり、指にまきつけて離す。

「学校に来るんだったら、こいつとオレにも会いに来てよ?」

しっかりと合った視線に、思わず頷いて。
仔猫を持ち上げて、ハイ、と弁慶に手渡した。
弁慶によく懐いた仔猫は、ごきげんにみい、と鳴いた。



明後日からの夏休み、少しだけ、楽しみになる。
仔猫にだけ、そっと、会いに行きますね、と伝えた。